嗅覚障害
人の五感と申しますと、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のことを指しますが、そのうち視覚と触覚以外は耳鼻咽喉科で診察しておりますので、つくづく耳鼻咽喉科は感覚器科であるなぁと日々の診療で実感いたします。
知らない間に悪化する?
この五感の中でも、嗅覚と味覚については、急な悪化があれば気が付きますが、日々の生活の中で、なかなか障害されていることに気が付きにくいものです。
特に我々人類は、野生の動物たちほど、嗅覚に依存した生活を送っていないため、障害されてもそれほど困ることがありません。
しかし、そのままで良いのでしょうか?
嗅覚障害の仕組み
一般的に、鼻かぜをひくと匂いが分かりにくくなります。
これは匂いを感じている嗅粘膜および嗅覚の伝導路にウイルスが感染し直接組織を傷害する場合、またはウイルスに対する免疫的な反応が結果的に嗅粘膜を損傷し、発症すると考えられています。
当然のことながら、鼻かぜが治ってきますと鼻の通気も改善し、嗅覚も改善してきます。
かぜが治ったのに、においがおかしい?
一部の患者様は、鼻かぜが治った後も、嗅覚が改善しないままの状態の方もいらっしゃいます。
このような状態を感冒後嗅覚障害と呼びます。
日本では嗅覚障害の患者様のうち、1/4の患者様がこの病態によるものとされています。
女性に多いとされていますが、理由についてはわかっておりません。
ファイバーで鼻腔内を評価しても明らかな異常を認めることがないため、病歴が診断の決め手となります。
一般的に数年間という、やや長い経過を辿りながら改善していくことが多いとされていますが、その治癒過程については詳細が分かっていない部分が多いとされています。
新型コロナウィルス感染症による嗅覚障害
新型コロナウィルス感染症による嗅覚障害も、基本的に上記と同じ経緯で嗅覚低下を起こしている可能性が高く、実際に新型コロナウィルス感染症による嗅覚障害のある方に対し、感冒後嗅覚障害に準じて治療しております。
時間はかかりますが少しずつ改善する傾向にあることが多く、新型コロナウィルス感染症による嗅覚障害が遺残した場合も、しっかりと治療を行ったほうがよいと考えます。
鼻腔ポリープを伴う副鼻腔炎
他に嗅覚障害をきたす病気として有名なのは、鼻腔ポリープを伴う副鼻腔炎です。
皆さんは副鼻腔炎にかかったことはありますか?
長引く鼻かぜの場合、副鼻腔炎を併発していることが多いです。
我慢して様子を見られている方も多くいますが、炎症が慢性化すると粘膜肥厚という状態が続き、結果的に鼻腔ポリープができることとなります。
こうなりますと手術しなければポリープを除去できない状態となりますが、この鼻腔ポリープが嗅裂にできますと、匂いの分子が嗅裂の粘膜に付着するのを阻害するため、嗅覚低下をきたすこととなります。
根本的には鼻腔ポリープを手術にて除去し、嗅裂の状態を元に戻すのがベストですが、手術まで踏み込めない方の場合、後述するような点鼻による治療で寛解を目指してゆくこともあります。
(※点鼻液でポリープのサイズが小さくなることはありますが、消失することはありません。嗅覚改善を目指してと薬を使うことがある、ということです)
ケガや脳の障害によるもの
他に嗅覚障害をきたす病気としては、外傷性嗅覚障害と神経変性疾患があります。
外傷性嗅覚障害として我々耳鼻咽喉科医がよく経験するのは、交通事故などで脳に損傷があり、そちらは改善したものの、気が付けば嗅覚が低下している、ないしは消失している、といった状況です。
大脳の嗅覚を感知している部位と、鼻腔内の嗅覚を感じている部位の間は細い嗅糸でつながっており、この部位は脳震盪などで断裂・損傷をきたすとされています。
もちろん脳実質の損傷、また鼻腔側の損傷による嗅覚低下もあります。
神経変性疾患による嗅覚障害としては、パーキンソン病やアルツハイマー病などによる嗅覚障害が有名です。
作用機序についてはやや難解なため省きますが、神経変性疾患による嗅覚障害に対しては、投薬による改善は難しいとされております。
ただ、今までパーキンソン病やアルツハイマー病と診断されていなかった患者様が、嗅覚障害を契機に早期発見につながるといった可能性があります。
嗅覚障害の治療
治療としては、やや強めのステロイド点鼻液を使用し、状況に応じて漢方などを併用します。
改善までは数週間・数か月を要することが多く、忍耐強く治療を続ける必要がありますが、他の感覚障害と異なり、投薬に対する反応が比較的早い印象があります。
まずは嗅覚障害の原因を特定しましょう
いずれにしても、なぜ嗅覚障害をきたしたのか、またどのような病気を精査しなければならないのか、診察することから始まります。
においがおかしい、わからないといった状態が長引いている患者様の御来院、お待ちしております。
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